インタビューは2017年8・9月に実施
紅を差したような唇とやさしい表情をたたえ、女性的な魅力を持つ石道寺の十一面観音さま。長い間秘仏だったが、1972年初版発行の井上靖氏による小説「星と祭」で全国的に知られ、参拝客が増え、無住職のお寺を守るために地域の人々が交代で常駐するようになったという。この日、当番だった中村さんと大谷さんに話を聞いた。
大谷さん(左)と中村さん(右)

日々の当番はどのように決めていらっしゃるのですか?
中村さん: この地域には40戸ありますが、高齢者を除いた30戸が皆で毎日2軒ずつ順番に担当しています。従って、1軒あたり月2回当番の日があるんですね。月曜日と1・2月の降雪期はお休みをいただいています。

小説「星と祭」をきっかけに当番制を始められたそうですね。
中村さん: それまでは参拝客もほとんどなかったし、年3回しか厨子を開けない秘仏だったんです。3月の涅槃会、5月の花まつり、9月のお彼岸ですね。子どもの頃は、おばあさんに連れられて涅槃団子をもらいに来たり、花まつりには甘茶をよばれたりしていた思い出があります。おばあさんたちも、観音さまに対する信仰が厚かったんでしょうね。
大谷さん: 厨子だけじゃなく、お堂の扉も開けたことはなかったなぁ。
中村さん: 扉はずっと閉まってたけど、すき間から中を覗けたんですよ。そうすると仁王さんが真っ暗な中に浮かび上がる。「あぁ~怖いところやなあ」と子どもの頃は思ってましたね。
持国天・多聞天立像が観音さまのわきを固める(国指定重要文化財)
中村さん: それが、ちょうど我々の親の世代から当番制が始まり、当時は大谷さんのお父さんとうちの母親がいつも一緒に当番してまして、その次は私と大谷さんに代替わりして。定年退職する前、冬の当番の時なんかは、朝5時に雪かきしてから会社に行ってましたね。

皆さんボランティアで月2回、というのは大変なことだと思います。
中村さん: 昨日今日始まったことでなしに、代々受け継いで来てますから自然なことです。やっぱり信仰心なんでしょうね。菩提寺は別にありますけど、お願い事があるとここに来るもんね。
大谷さん: もともとこの地は浄土真宗の地ですが、石道寺は真言宗。宗派関係なく、やっぱりここには愛着がありますね。村の人みんなの信仰心が厚いから、こういうことができるんやと思います。

参拝者は全国から来られるとか。
中村さん: 北は北海道から南は沖縄まで。“子授け観音”として有名なので、若い方がお参りされた後に子どもを授かったと言って、じいさん、ばあさんが遠くからお礼参りに来られたりします。お参りの方にはお堂に入っていただいて、椅子に腰かけられてから、厨子を開けさせてもらうんですよ。

ギギーッという音もまたいいですね。
中村さん: やはり厨子に入っておられるというのが、収蔵庫とは感じが違うと思います。こんなにすぐ近くで拝めるというのも、まず他にはないでしょ。
十一面観音立像(平安中期・国指定重要文化財・欅一木造り)
大谷さん: 皆さんまた来たいと言って喜んで帰ってくださるのが、やっぱり世話してる僕らとしては嬉しいね。

自然の中に溶け込んでいるお寺の雰囲気も素晴らしいです。
中村さん: 新緑の時は外の黄緑がお堂の中に映り、夏はグリーンになり、秋になると赤くなるんですよ。冬は扉は閉めてあるけど、雪が反射してすごく明るい。四季折々、何度来てもいいですよ。
大谷さん: ここは紅葉が有名で、11月はたくさんの方が来られます。その時期だけは当番が3人体制になりますが、それでも忙しくてお昼ご飯を食べられないほど。鶏足寺とセットで訪れる方が多いですが、こちらから山道を通って行く方が少し歩きやすいですよ。
中村さん: 空気もすごくいいので、ぜひ一度お越しください。やさしい観音さまの微笑みと自然に触れてもらえたらと思います。